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お菓子ストーリーズ

さかもとロール⑤

2021/09/16


さかもとロール⑤

石窯オーブン・・・

生地が出来たら、「石窯オーブン」で焼きます。これは以前、お菓子ストーリーズの「ダックワーズ⑦」で紹介したツジキカイさんで開発されたものです。特徴として、お菓子を最適な品質で焼き上げるために独自の技術で、石窯で専用の石、「セラミック」を使っていることです。「セラミック」は、お菓子を焼くために重要な遠赤外線の放射量が大きい成分を配合し、高度な耐熱性、耐久性と調湿効果を持たせています。遠赤外線の熱質は、表面からやわらかく、芯から温まるような熱です。私は、このオーブンでは、「さかもとロール」の生地、ジェノワーズ(スポンジ生地)、パウンドケーキ、フィナンシェなど、やわらかい熱で水分をいかに残して焼くものに使用しています。

私は、東京の修行時代につかっていたオーブンは、七洋製作所のオーブンを使わせていただいておりました。これは、オーブンの中では、最高ランクのもので、とても良い生地を焼かせていただきました。実家に帰ってからは、洋菓子部門を始めるにあたり、一番妥協をしたくなかったのが、「オーブン」でした。オーブンの焼きあがる生地は、質の悪いオーブンに比例して、質の悪い生地が出来上がると思います。ですから、修行時代のオーブンを基準として、自分に合った最高のオーブンを探し、行きついたのがツジキカイさんの「石窯オーブン」でした。オーブン内に手をかざすと、熱の伝わり方がやわかいのです。他のオーブンは高温だと手に痛い伝わり方がするのですが、やわらかいのです。高温でも柔らかいく伝わるから表面がさっと焼かれるのではなく、表面と内面からじっくりと焼かれ、水分をもった、しっとりした生地が出来上がります。

表面がキラキラ・・・

生地を上火190度、下火160度で17分焼きます。最適な手順で生地を作り、最高のオーブンで焼くと、本当にキラキラした美味しい顔の生地が焼きあがります。修行時代、中村シェフから、オーブンから良い生地が焼きあがると、キラキラした美味しい顔、良い顔をしていると言っていました。言われた当時は、何気なく聞いていただけですが、たくさん失敗して、良い生地が焼けるようになると、言っている意味が分かるようになりました。キラキラしているというのがポイントです。「キラキラ」とは、その名の通り、生地がキラキラする。つまり、きちんと水分を残して焼くと、生地が乾燥していないので、その水分がキラキラと光るのです。これはパウンドケーキでも、フィナンシェでも、ジェノワーズ(スポンジ生地)でも同じことです。しっかりと水分と油脂が結合した乳化した生地は、水分を残して焼くことができます。だから、キラキラした美味しい顔をするし、さらに水分が残るとしっとりした食べやすい生地になります。

焼き色をとる・・・

焼きあがると、美味しそうな茶色の焼き色になります。この焼き色の部分は、手で取り除きます。この一仕事をいれることで、食感がまったく違うものになります。試作中、納得のいく生地が出来上がり、はじめは焼き色がついたままクリームを巻いていました。これは、これで美味しいかったです。ただ、なにかしっくりとこないのです、心の中が。もっと良いものができると思うし、「さかもとロール」という名前を付けるので、妥協したくなかったのです。求める食感は、一口、二口と噛んでいると口の中で生地の美味しさを楽しめ、それからクリームと共にすっと飲み込める口溶けの良さをです。生地は最高のものが出来たと思ったので、頭の中での試作、試行錯誤の始まりです。毎日、何かヒントになることはないかと製菓の本を見たり、経験を紐解いていくと、ある経験が頭の中に降りてきました。昔、関西の有名店で、10日間研修させていただいたことがあります。その時に、生地の焼き色を手ではがしていたのを思い出しました。焼き色は黄色のスポンジの部分より、少しかたい食感になるので、その焼き色をはがすことで、食べやすくなることを教えていただきました。

早速、生地を焼き焼き色の部分をはがし、クリームをのせ巻いてみました。食べた瞬間、目指す味、食感の生地が出来たと思いました。一口二口、噛んで生地とクリームが一体となり、すっと口溶け良く飲み込めました。私の美味しいお菓子の基準は、生菓子、焼菓子ともに、口溶けが良いこと。焼菓子のクッキーがザクザクした食感でも、すっと飲み込める。パウンドケーキは適度な水分量があり、すっと飲み込める。ケーキも、どんな食感でも、すっと飲み込める。口に入れて溶けてなくなるという表現ではないです。口の中で噛んで、味を楽しみながら、すっと飲み込める。これが、私の中の美味しい基準です。ですから、私が考えたお菓子は、食感が強いもの、弱いものでも、最後はすっとなくなるように考えて作りました。一番初めにつくった「さかもとロール」は、美味しい基準をあらわしたケーキになりました。