ダックワーズ(Dacquoise)④
2021/08/08
ダックワーズ(Dacquoise)④
アーモンドを最高の状態で使う・・・
『ダックワーズ』の風味を出すものは、「アーモンド」です。芳醇なアーモンドの風味が『ダックワーズ』の美味しさの一つとなります。ですから、粉末のアーモンドは、新鮮なものを使い、保存も必ず冷蔵庫です。アーモンドには油脂の成分があり、これが風味の元です。ただ、油脂は保存方法が適正でないと酸化してしまい、風味が著しく減少します。ナッツ類の酸化とは、ナッツの脂質に酸素が結びついて「過酸化脂質」という物質が作られることを主に指します。ナッツには不飽和脂肪酸が豊富に含まれますが、沢山の空気に触れると酸化しやすい性質を持ちます。「過酸化脂質」が作られると、ナッツの風味が減少します。
ナッツの酸化を進行させる要因は「酸素」だけでなく、「光」「熱」もあります。そのため、坂本総本店では、仕入れたナッツ類、粉末アーモンドなどは、すべて冷蔵庫で保管します。冷蔵庫に入れることで、「光」「熱」を避けることができ、いつでも最高の状態の素材を使うことができます。
粉末アーモンドの挽き方・・・
『ダックワーズ』の食感を決める要素は、①メレンゲの状態 ②混ぜ終えた状態 ③粉末アーモンドの挽き方の違いの3点です。今回は、③の粉末アーモンドの挽き方についてお話をします。以前、私が修行していたお店では、粉末アーモンドの挽き方は、「細挽き(ほそびき)」というものでした。こちらの挽き方は、スーパーや多くの製菓材料店で扱っているものと同じ挽き方です。
もう一つ、私が良く使う挽き方のものに、「粗挽き(あらびき)」というものがあります。こちらは、「細挽き」がサラサラしているのに対して、「粗挽き」はザラザラしています。つまり、挽き方が粗いのです。今回『ダックワーズ』では、「細挽き」と「粗挽き」の粉末アーモンドを、ブレンドしています。ブレンドするには理由は、求める食感を作り出すためです。
「細挽き」だけを使うと食感がしっかりと強めになります。そして「粗挽き」を使うと、食感にホロっと崩れる弱さを作り出します。私は、試作をはじめは、最初は「細挽き」のものだけを使いました。感想としては、フワッと軽い『ダックワーズ』はできたけど、口の中で最後、飲み込みにくいものでした。次に、「粗挽き」のものだけを使うと、フワッと軽く、すぐに口の中で崩れていきました。とても口どけがよいのですが、「細挽き」のものと比べると、アーモンドの芳醇な風味が劣ります。
ここで自問自答して、やっと気が付きました。「細挽き」は、しっかりと食感になる分、口の中に残る時間が長いため風味をより味わうことができる。「粗挽き」は、崩れるような食感になるので、口の中に残る時間が短いので風味を味わう時間が短い。「細挽き」「粗挽き」の特徴をうまく組み合わせたブレンドをすれば、きっと求める食感と風味ができるという希望が見えてきた瞬間でした。
ただ、ここからが長い道のり。東京での修行中、何百回と『ダックワーズ』を焼いてきましたが、自分で配合を起こしオリジナルを作るとなると頭が痛い日々でした。粉末アーモンドのブレンドの比率を変えることを繰り返し、やっと求める生地が出来ました。完成した生地の感想は、しっかりとメレンゲが効いて、フワッと軽く、口の中では、アーモンドの風味をしっかりと感じられ、崩れるように飲みこめる生地が完成しました。