ほまれ⑦
2021/10/27
ほまれ⑦
特注の箱に流す・・・
『ほまれ』のために作った特注の箱に、「餡」を流しいれ、真ん中に求肥を入れます。箱は、細長のスマートな形にしました。この形にしたのも意味があります。私が東京での修行時代に、細長いスタイリッシュなパウンドケーキがとても流行りました。この細長いパウンドケーキを一番に始めたのは、東京の目白にある「パティスリーエーグルドゥース」の寺井シェフです。日本を代表するパティシエの一人で、私もよくお菓子を買いに行きました。ここのお菓子は、フランスの伝統菓子をベースに、寺井シェフの考え、意志がつまったオリジナリティのもの。この当時、スタイリッシュなパウンドケーキに影響を受け、多くのパティシエがつくるようになりました。
ある製菓の専門誌に、寺井シェフのパウンドケーキの形についての記事が載っていました。どうして、スタイリッシュで細長いパウンドケーキにしたのか?という質問に対して、一口ですべてのパーツを食べられるパウンドケーキにしたかったので、この形にしたと書いてありました。他にもいくつか理由がありましたが、「一口ですべてのパーツ」という言葉が、私の心に残っていました。
一口ですべてのパーツ・・・
『ほまれ』を試作をしている際に、餡と求肥を一緒に食べられるようにしたい、餡だけでなく、求肥の味わい、食感を一緒に楽しんでいただきたいと思いました。その時に、この「一口ですべてのパーツ」という言葉が、頭に浮かび、あのスタイリッシュなパウンドケーキのことを思い出しました。
早速、合羽橋道具街に行き、細長いプラスチックケースを見つけ、餡と求肥の割合、求肥の置き場所など、何パターンもつくり試作しました。そして、出来上がったのが、上の画像です。求肥を中心に置き、厚さを決めて、糸寒天で餡に適度な硬さをもたせました。とろっとやわらかく口溶けの良い求肥に仕上げた『ほまれ』が完成しました。流し入れる箱は、20.5㎝ × 4.5㎝ 高さ4㎝に決めた特注品です。両端のつまみを引くと簡単にお菓子を食べることができる構造になっています。
試作は100回。1回目の試作を行えば、半分試作が終わった・・・
試作は、これでもかというくらい沢山しました。私の中での二つのルールがあります。①本当に作りたいお菓子ができたなら、完成するまでは試作は100回はするです。100回すると分からないことが沢山でてきます。そして、一つ一つその疑問を解決していくと、最後は必ず完成します。これは、東京時代に学んだことです。②試作を1回行えば、完成までの半分は終わった。これは、私が試作をするうえで、心に置いている言葉です。商品が完成するまで、長い道のりがあります。特に、『ほまれ』のような和菓子の試作には、分からないことが沢山あり、本を見たり、お菓子をいくつも取り寄せ食べることなど。そして自分の中で仮説を立て、実行して、自分のイメージとの誤差を少なくする作業を繰り返します。でも、本当に一回目の試作は、小さな歩みではなく、大きな歩みです。一回試作することで、わからないことを、できるだけ出す。この「できるだけ出す」ことが、一回目の試作の意味であり、一番重要なことだと思います。
『ほまれ』は食感、素材の組み合わせ、餡、求肥のかたさ、口溶けの良さなど、今まで私が経験してきた洋菓子の考え、経験、技術、味の基準を活かすことが出来た和菓子だと思います。私がつくった製品を、妻が頭を悩ませながら名前を考え、リーフレットを作り、そして、母が何度も文字を書き直し『商品』にしてくれました。妻と母の協力なしには『ほまれ』という長男の誕生菓は生み出すことはできませんでした。
このお菓子が『ほまれ』という名の通り、誉れ高いお菓子になるように育てて行こうと思っています。