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お菓子ストーリーズ

さかもとロール①

2021/09/02


さかもとロール①

2018年の5月に東京の修行先から帰り、6月に焼菓子のダックワーズ、ディアマンの2種類をつくり、7月より冷蔵商品のケーキをはじめました。ケーキの中で、一番最初に出したのは2種類、「ぷりん」とロールケーキの「さかもとロール」です。ロールケーキの前にある「さかもと」は、屋号である坂本総本店の「さかもと」からとりました。坂本総本店のケーキのトップバッターであり、代表となってほしいと願いを込めて、『さかもとロール』と名付けました。

『さかもとロール』は、素材の米粉に、米の名産地である新潟県産米を低温でじっくりと時間をかけ超微粒粉に挽いたものを使用。この米粉に、しっかりとなめらかに泡立てた卵、栄養価の高い低温殺菌牛乳、菜種油を加え、きめ細やかなスポンジを焼き上げました。中には、しっかりと冷やし温度管理をした良質な生クリームをふんわりと泡立て巻き込んでいます。

スポンジを『五感』でつくる・・・

ロール生地のスポンジの基本の作り方をご説明します。①卵と砂糖を人肌くらいに熱を付けてミキサーで高速で泡立て、次に中速に落として、最後に低速でキメを細かくします。②米粉をしっかりと混ぜ合わせます。③低温殺菌牛乳、菜種油をゆっくりと均一になるまで、合わせます。④生地を鉄板に流し、オーブンで焼き上げます。

この4つの工程を、目で泡立て具合、混ぜ具合をみて、耳で、ミキサーの音を聞いて、鼻でオーブンの焼き上がり香りを感じ取り、手で生地の混ぜ終わりを感じ取り、最後に生地を食べて、生地の出来を判断します。ここで書いたように、『五感』を使って生地を作っています。

「卵黄」「卵白」を別々に計量する・・・

生地を泡立てる工程は、卵と砂糖を熱を付けてミキサーにかけること。この工程を細かくご説明いたします。まず、「卵」は「卵黄」「卵白」を別々に計量して、「卵黄」「卵白」を合わせます。通常は「全卵(卵黄卵白)」計量する。もしくは、「全卵」に「卵黄」をプラスする。この2つの計量の方法が一般的です。では、どうして、「卵黄」「卵白」を別々に計量してあわせるかの理由をご説明いたします。理由は、殻付きの卵を割った「全卵」の重さは、それぞれ異なること。つまり、「卵黄」「卵白」の重さも異なります。「卵黄」「卵白」の性質は異なりますので「卵黄」と「卵白」の重さを別々に計量することで、泡立ての生地の状態、焼き上がりの状態を毎日、同じ状態にすることが可能になります。

「卵黄」は、レシチンという天然の乳化物があります。乳化、水分と油分を結合させること。乳化した生地は、水分が油分と結合しているので、水分逃がさず保水性のあるしっとりした生地にさせます。卵白は約90%は水分、残りの10%はたんぱく質の2つできています。卵白の水分を生地に抱き込むこと、つまり乳化した生地にさせることで、しっとり水分を抱き込んだ生地になるのです。

「卵白」は、起泡性、泡立たせる力を持っているため、生地をふわっとさせることに力を発揮します。ただ、ふわっとさせること、空気を抱き込むことは、生地を乾燥させることにつながります。このふわっとさせる卵白の水分を、卵黄のレシチンで乳化させるとこで生地のしっとりさにつながります。

「さかもとロール」の生地は「卵黄の乳化性」、「卵白の起泡性」の二つを組み合わせて作っています。通常の「全卵」の生地よりも、「卵黄」多めに配合しています。理由としては、①卵黄の乳化性の性質を活用して、生地をしっとりさせるため。②「卵黄」を多めに配合することで、生地がやわらかくなります。どうしてやわらかくなるかというと、「ゆで卵」の「白身」と「黄身」の食感の違いを想像してください。「白身」はブリっとした弾力のある食感。「黄身」は、ホロっと崩れる食感です。③「卵黄」は卵の旨味を出しますが「卵白」は水分が約90%なので、淡白な風味です。

この①、②の食感の違いは、焼き上がりのスポンジ生地の食感にもつながります。イメージとして、「白身の卵白」が多いと生地は、フワッとしているけど、かために仕上がります。「黄身の卵黄」が多いと、ふわっとさは少しなくなるけど、しっとりとしたやわらかい生地になります。もちろん、あとで入れる、牛乳や菜種油の水分の量にもよっても、生地のしっとりさは変わりますが、「卵」のみの考え方を軸に、スポンジ生地は考えていますので、この「卵黄」「卵白」の性質から、自分の求める食感、風味になる、割合を何十回も試作をして導き出しました。

『毎日同じ』生地にする。これは、本当に難しいことです。この難しいことを、毎朝の一番のはじめの仕事にしています。夏の室温、冬の室温は異なるので、すべての『五感』を使い生地を仕込みます。そして、何より、自分が良いものをつくろうと思う気持ち、意思を持ち、心を込めること。単なる精神論ではなく、良いものをつくるには、しっかりとした製菓理論、反復して修得した技術が土台にないと『心を込める』ことはできないと、修業時代に一番に学びました。

『さかもとロール』は、屋号の「さかもと」がつきます。この屋号の「さかもと」は私をいつも見ています。少しでも手を抜くと、倍になってかえってきます。きちんと『心を込める』と、きちんとした形で自分にかえってきます。『さかもとロール』は、そんなお菓子です。